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筋損傷のリハビリテーション③筋損傷のメカニズムと回復過程

今回の記事は「筋損傷リハビリテーションシリーズ」の「筋のバイオメカニクス」についての続きです。

今回は「筋損傷のメカニズムと回復過程」です。

最も損傷する組織の1つである筋はどのように損傷して、どのように回復していくのでしょうか。

筋損傷のメカニズムとは

筋損傷は

  1. 挫傷
  2. 肉離れ
  3. 裂傷

によって引き起こされます。

スポーツ現場では90%は挫傷と肉離れとなります。

挫傷は急激な圧迫力を受けるときに発症し、コンタクトスポーツで好発します。

肉離れはスプリントやジャンプで筋に過剰な張力がかかり、筋繊維が過伸張される時に、筋腱接合部の周辺で好発します。

筋損傷の重症度

筋損傷は軽度、中等度、重度の3段階に分けられます。

①軽度(Ⅰ度)

わずかな筋損傷で軽度の腫脹があり、わずかな筋力低下や運動制限がみられます。

②中等度(II度)

より大きな損傷があり、明らかな機能障害(収縮不全)がみられます。

③重度(Ⅲ度)

損傷が横断面全体にわたり、実質的に筋機能を失います。

回復過程①破壊相〜成長因子やサイトカインの放出〜

過剰な機械的ストレスが個々の筋繊維の横断面全体に伝わり、その後、損傷した筋の断面が広がります

筋繊維は非常に長い紐状の細胞のため損傷による壊死が筋全体に広がる危険性がありますが、

収縮帯や細胞物質の凝固により壊死の拡大を防いでいます。

損傷後数時間は壊死は局所に収まり、収縮帯が細胞膜の欠損を埋め、損傷された細胞膜が修復されるように覆います。

最近の研究では途絶した細胞膜にリソソーム小胞が現れて、一時的な細胞膜の役割を果たすことが明らかになっています。

筋繊維の損傷とともに血管の損傷も起こり、血液由来の炎症細胞が損傷部位に直接伝わります。

炎症反応は衛星細胞と筋繊維の壊死部分が種々の化学物質を放出し、炎症細胞の浸潤を促すことで増殖していきます。

損傷した筋内ではマクロファージと線維芽細胞が活性化され、

周辺の炎症細胞に向け、成長因子、サイトカイン、ケモサインを放出します。

放出される成長因子に加えて、多くの組織ではその細胞外基質の中に不活性の状態で成長因子を蓄えていて、

この成長因子が放出されることで修復過程が開始されます。

成長因子やサイトカインの発現はストレッチや機械的刺激によって引き起こされます。

筋損傷の超急性期では多核白血球が最も多くみられますが1日以内にそれらは単球と置き換えられます。

炎症の基本原理の通りに単球はマクロファージに変わり、リソソーム酵素によりタンパク質分解と貪食作用に関与します。

マクロファージの貪食作用は壊死細胞に対する反応で周いの基底膜の中でマクロファージによる貪食が終わると新しい筋繊維形成を開始する衛星細胞の足場となります。

回復過程②修復・再構築相〜筋機能の回復に必要な2つの過程〜

破壊相の後に損傷筋の修復が筋繊維の再生結合組織の瘢痕形成という2つの過程として始まります。

筋機能の回復はこの2つがバランス良く行われる必要があります。

損傷に反応して未分化の細胞である衛星細胞が増殖し筋芽細胞に分化します。

その後、多核管状筋細胞となって結びつきます。

多核菅状筋細胞は損傷した筋繊維の残存部分と融合し、最終的に筋繊維の再生部分は正常の横紋構造となって成熟した形態となります。

基底膜内が再生筋繊維で満たされると筋繊維は基底膜の開口部から筋組織間に形成された結合組織瘢痕に向かって伸びます。

瘢痕の両側から筋繊維は多数の分枝を出し、瘢痕を貫こうとします。

その先端は瘢痕組織に付着して小さい筋腱接合部を形成します。

次第に瘢痕は小さくなり筋繊維の端が近づくが損傷した筋繊維の端同士が融合するのか、

瘢痕組織が筋繊維の癒合を妨げたままになるかは未だに不明です。

損傷直後に損傷筋繊維間の隙間は血腫で満たされます。

1日以内に食細胞(単球やマクロファージ)を含む炎症細胞が血腫に侵入して血塊を処理し始めます。

その後、フィブリンとフィブロネクチンが初期の肉芽細胞を形成し、繊維芽細胞の足場となります。

この新しく形成された組織によって損傷組織が収縮に耐えられるようになります。

繊維芽細胞と細胞外基質のタンパク質とプロテオグリカンを合成し始めます。

次にテネイシン-Cとフィブロネクチンが合成され、静止長の何倍かに伸張されることが可能になります。

その後、Ⅲ型コラーゲンの産生が続きます。

Ⅰ型コラーゲンの産生は数日後から数週間続きます。

コラーゲンからなる結合組織は損傷後、最も脆弱な部分ですが、Ⅰコラーゲンの産生に伴い強靭になっていきます。

約10日に瘢痕が成熟し損傷筋の連結は弱くはありませんが、過負荷がかかれば筋繊維と瘢痕の間に形成された筋腱接合部は容易に損傷してしまいます。

損傷前の筋力を完全に回復させるには相当な時間を必要とします。

損傷筋の再生において血管新生は不可欠です。

損傷部位への欠陥供給の回復は再生の第一段階であり、それ以降の形態学的、機能的な回復の必要条件です。

新しい毛細血管は血管の生存部分から伸び始め、十分な酸素を供給することにより、

再生筋繊維における好気性代謝を可能とします。

再生したばかりの筋管にはミトコンドリアがほとんどなく嫌気性代謝が増加しますが

最終段階では好気性代謝が主要なエネルギー経路となります。

好気性代謝が必要な酸素供給量が満たされない限り、再生が進行しません。

筋損傷回復の促進・阻害因子

①成長因子の抑制

筋修復時に瘢痕化に関与する成長因子(TGF-β)は阻害因子であるデコリン、スラミンなどによって瘢痕形成が減弱される。

②不動と運動

短期間の不動は治癒の促進に有用ですが、不動は1週間以内にすべきであり4〜6日間が最も再断裂や瘢痕組織の過剰形成を防ぎます。

損傷後に運動を早期に開始しても再断裂や瘢痕組織の残存は変わらないと報告されています

③NSIDs

短期間のNSAIDs投与が筋損傷からの回復を早めたという報告もあるがヒトに対する効果を報告したものは多くありません。

治癒過程を考慮するとNSAIDsは炎症反応を減少させ、損傷筋の収縮能に悪影響を与えることはありません。

筋再生を遅延させることもありません。

④超音波治療

筋損傷の治療で広く進められていますが、科学的根拠は多くありません。

疼痛緩和効果はあると考えられていますが、治癒過程に対して肯定的な効果は示されていません。

⑤体外衝撃波

体外衝撃波は腱障害への有効性は示されつつありますが、筋損傷への有効性は示されていません。

しかし火傷後の瘢痕組織治療に対する有効性が示されつつあり、筋損傷後の有効な治療法として期待されています。

筋損傷の回復メカニズムまとめ

いかがでしたか?

筋損傷は最もよく遭遇する外傷です。

治癒過程においては各段階でどのようなことが起こるのかが明らかになっていますが、最後の瘢痕化に対しては不明な点も多く残されています。

また、一般的に有効とされている物理療法なども有効性は示されていないものも多いというのも意外でしたね。

とはいえ、筋肉は軟部組織の中でも回復能、強化能ともに高い組織となっていますので

軟部組織損傷治療の原則である「PEACE & LOVE処置」で早期からしっかりと対応していれば比較的リハビリテーションは円滑に進んでいくはずです。

そんな筋損傷のリハビリテーションですが、次回は筋損傷の代表である肉離れについてお話ししていきます。

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