進行性核上麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)とは
大脳基底核、脳幹、小脳といった部分の脳神経が徐々に減っていく指定難病です。
約10万人に1人程度で男性に多く、早い人で40歳頃に発症しますが平均では60歳前後で発症します。
パーキンソン病の症状と似ているため、
発症初期はパーキンソン病との鑑別が難しいのですが、
進行が早く、パーキンソン病の薬が効きにくいという特徴があります。
遺伝性はなく、発症の原因も不明ですが
異常タウ蛋白が脳内の神経細胞やグリア細胞に蓄積して神経細胞の変性や脱失が進むとされています。
進行性核上麻痺の症状
①転びやすさ、歩行障害
進行性核上麻痺では初期の頃から何度も何度も転倒を繰り返します。
転倒時に手を出すステップ反応も起こりにくくなるため顔面や頭部に大きな怪我を負うことも少なくありません。
足がすくんで前に出しにくくなる「すくみ足」や
歩いているうちにどんどん速くなって止まれなくなる「加速歩行」「突進現象」も起こり、
さらに転倒しやすくなります。
②眼球運動の障害
上下方向(特に下方向)へ眼球を動かすことができなくなります。
進行してくると左右方向も動かすことができなくなり、眼球を正中位から動かせない「固視」という状態になります。
眼球の動きが悪くなることで、さらに転倒をしやすくなります。
③パーキンソニズム
進行性核上麻痺におけるパーキンソニズムはパーキンソン病とは違い
四肢の固縮ではなく頸部や体幹に強く出る「体軸性固縮」になります。
またパーキンソンが屈曲姿勢を取るようになるのとは反対に反り返ってくるようになってきます。
安静時振戦は稀です。
④構音障害、嚥下障害
初期の段階から喋りにくさ(構音障害)が見られます。
嚥下障害は中期以降(発症3〜5年)に出現し始めます。
初期から嚥下障害が出現する場合は予後が不良です。
⑤認知障害
進行性核上麻痺の認知障害はアルツハイマーなどのような物忘れではなく、注意力や判断力の低下が目立ちます。スムーズに物事が行えなくなり、危険に対しての判断力が低下することがさらに転倒リスクを高めてしまいます。
進行性核上麻痺の経過
進行性核上麻痺の最初の報告者であるSteeleはPSPの経過をⅠ〜Ⅲ期に分類しています。
<Ⅰ期>
- 歩行の不安定性
- 易転倒性
- 動作緩慢
- 霧視
- 発語障害
- 認知機能障害
<Ⅱ期>
- 眼球運動障害(上下方向)
- 開眼失行、眼瞼痙攣
- 歩行障害
- 項部ジストニア
- 仮面様顔貌
- 構音・嚥下障害
- 認知障害
<Ⅲ期>
- 眼球運動の完全障害
- 体幹固縮・項部硬直
- 起立不能・寝返り困難
- 著名な認知障害
- 無動・無言
進行性核上麻痺の治療
進行性核上麻痺は確立された治療はありません。
薬物療法としてパーキンソン病治療薬や抗うつ薬が用いられますが、
効果はあまりないか、あっても一時的です。
リハビリとして頸部や体幹のストレッチ、バランス訓練、言語訓練や嚥下訓練を行います。
進行性核上麻痺の生活上・介護上の注意点
①転倒対策
認知障害のため危険認知度が低くなり、
危ないところでも歩いてしまったり、掴まってはいけない物に掴まってしまったりします。
反射障害による転倒もしやすくなります。
- 危険防止のためにこまめに声かけ
- 歩行には介護者が付き添う
- 家具の角に保護クッション
- 手すりを早めにつける
- 家の中の通路を整理
- ベッドを低くする
- 排泄は早めに行く
- 目に見えるところに気の引くものを置かない。
- 保護防止をかぶる
②嚥下障害に対して
- なるべくベッドではなく、椅子を使って身体を真っ直ぐにして食べる
- 食事中は気が散らないようにテレビは消す
- 食事のお皿は真下に置かない。真下のものは視野に入らない。
- 食事前には余分な唾液などは取り除いておく
- 少し顎を引いた頭位を保つ
- 一口の分量は少なめにする
- 液体にはとろみをつける
進行性核上麻痺の予後
進行は早く、車椅子が必要になるのに2〜3年、寝たきりになるのに4〜5年。
平均罹患期間は5〜9年で死因は肺炎や喀痰による窒息が多くなっています。