腎機能が悪いと言われると、
あまり運動やリハビリ(理学療法、作業療法など)を行わない方が良いのかな、
そういう印象を持ちませんか?
しかし、それは本当に正しいのでしょうか?
慢性心不全患者さんを診ていると、
腎機能の指標とされる推算糸球体濾過量(eGFR)は正常値以下のケースの方が多いくらいです。
心臓リハビリテーションの報告ではありますが、
運動療法が腎機能に与える影響についての報告がありますので
そちらを参考に考えていきたいと思います。
本当に運動が腎機能に悪影響を及ぼすの?
外来心臓リハビリテーションに参加した群と参加しなかった群で
初期と3カ月後で血液生化学検査と心肺運動負荷試験を実施して
その変化を比べています。
もし、運動が腎機能に悪影響を及ぼすのであれば、
心臓リハビリテーション参加群の方が腎機能関連の数値が悪くなっているはずですよね。
では、結果を見てみたいと思います。
まず、心臓リハビリテーションに参加しなかった群(non-CR)です。
(CRとはCardiac Rehabilitationの略です)
全ての結果において有意差が認められていません。
ちなみに略語は以下の通りです。
- eGFR:estimated glomerular filtration rate (推算糸球体濾過量)
- AT:anaerobic threshold (嫌気性代謝閾値)
- peak VO2:peak oxygen uptake (最高酸素摂取量)
- Hb:hemoglobin (ヘモグロビン)
- TG:trigryceride (トリグリセリド)
- LDL:low density lipoprotein (低密度リポタンパクコレステロール)
- HDL:high density lipoprotein (高密度リポタンパクコレステロール)
- BG:bloodsugar plasma glucose (血糖値)
- MBP:mean blood pressure (平均血圧)
続いて、心臓リハビリテーションに参加した群(CR群)です。
運動耐用能に関する指標である
ATとpeakVO2は有意に改善しています。
運動療法の効果がしっかり出ています。
では、腎機能の指標であるeGFRはどうかと見てみると、
なんと若干ではありますが、有意差に数値の改善を認めております。
Non-CR群がeGFRが少し低下していたことを考えると、運動療法の効果として考えることができるでしょう。
先行研究においても、運動療法が腎機能を維持もしくは改善するというものは存在します。
つまり、慢性腎臓病(CKD)であったとしても適切な運動負荷量であれば、有害事象はなく、
むしろ腎機能を改善し、さらに運動耐用能も向上することができることが示唆されました。
なぜ運動療法が腎機能を改善するのでしょうか?
運動がどのような機序で腎臓にプラスの影響を与えるのでしょうか?
1つは、CKD(慢性腎臓病)のリスクファクターとして知られている、
糖尿病や脂質異常症の指標であるBGやTGが改善していた点です。
少なからずCKD(慢性腎臓病)の進行抑制効果と言えると考えます。
次に、eGFRが低下する要因として
腎臓への血流の低下や糸球体内圧の上昇が挙げられます。
今回行った心臓リハビリテーションでの運動療法には
末梢循環の改善やレニンアンジオテンシンアルドステロン系(RAA系)の抑制効果
が報告されています。
運動耐用能が向上していることからも運動療法の効果はあったと考えられるでしょう。
その結果、血管内皮機能の改善やRAA系の抑制により腎血流が増加したり
糸球体内圧が軽減することによりeGFRが改善した可能性があります。
まだまだ検討するべき課題も多いですが、理屈からしても運動療法の効果があることは十分理解できるんです。
慢性腎臓病は運動すると腎機能が改善 まとめ
近年、腎臓リハビリテーションという分野も成長してきており、
腎不全やCKD(慢性腎臓病)患者さんの運動療法への期待が高まっています。
糖尿病性腎症から透析導入に至る患者さんが毎年10,000人以上にものぼります。
これらの透析導入を少しでも抑制することは
患者さんのQOLや長期予後の改善はもちろん、
医療経済的にも大きなプラスになると考えます。
「腎臓が悪いから運動は控えましょう」
ではなく、
腎臓が悪いからこそ積極的に運動療法が必要であり、
退院後の運動はもちろん、ご自宅での訪問リハビリを検討されることをオススメします。
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